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肺NTM症の
診断のポイントは?

  • 肺NTM症の診断は、画像所見、他疾患の除外、培養検査の3点から行います。臨床症状の有無は問いません1)
  • NTMは環境中に広く存在するため、検体からNTMが1回だけ分離同定されても病的意義があるとは限りません2)。確定診断には、喀痰であれば2回以上の異なる検体で培養陽性となることが必要です1)
  • 2024年から、抗GPL-core IgA抗体または胃液を利用した暫定的な診断が可能となりました1)
  • 公衆衛生の観点から結核との鑑別が重要ですが、肺NTM症のなかには結核と画像所見が類似しているタイプもあり、注意が必要です3)
  • 肺NTM症は原因菌種により治療が異なるため、菌種の同定を必ず行います2)

肺NTM症の診断

肺NTM症は画像所見、
他疾患の除外、培養検査
により
診断します

肺NTM症の診断基準

  • 本邦の肺非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria:NTM)症の診断には、2024年に日本結核・非結核性抗酸菌症学会と日本呼吸器学会が共同で発表した「肺NTM症の診断基準」と「暫定的診断基準」が、用いられています 表1、表2 1)
  • 肺NTM症と診断するには、①胸部画像所見でNTMに合致する所見が認められ、②他の疾患が除外され、③培養検査でNTM陽性(喀痰であれば2回以上、気管支肺胞洗浄液であれば1回以上)であることが求められます。喀痰による陽性が1回であっても、採血で抗GPL-core IgA抗体陽性または胃液で培養陽性を1回確認できれば、暫定的に診断することもできます1)
表1

肺NTM症の診断基準

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日本結核・非結核性抗酸菌症学会 非結核性抗酸菌症対策委員会, 日本呼吸器学会 感染症・結核学術部会. 結核. 2024; 99(7): 267-270.

表2

暫定的診断基準

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日本結核・非結核性抗酸菌症学会 非結核性抗酸菌症対策委員会, 日本呼吸器学会 感染症・結核学術部会. 結核. 2024; 99(7): 267-270.

  • NTMは環境中に広く存在しているため、感染症の原因菌でなくても検出されることがあります。このため、喀痰培養検査を用いる場合、1回陽性となっただけでは、肺NTM症の確定診断にはなりません1)
  • 肺NTM症の診断には、臨床症状の有無は問いません。臨床症状が出現するかなり前から画像所見の異常が認められることや、無症状の患者が少なくないことが理由に挙げられます1)
  • 他疾患の除外では、特に結核との鑑別が重要になります4)

画像検査と抗酸菌検査

  • 画像検査
  • 抗酸菌検査

検査オーダー

  • 検査には、胸部単純X線検査と胸部CT検査が主に用いられます3)
  • 肺MAC症が疑われる場合には、胸部単純X線写真では軽微な病変の検出には限界があるため、胸部CT検査、特に高分解能CT(high-resolution computed tomography:HRCT)を用います4)。HRCTにより、通常の胸部X線検査では認識できないような小結節や軽微な気管支拡張など、初期の異常が明らかになるケースもあります5)
  • 胸部単純X線検査の撮影は、正面・側面の2方向行います3)
  • 側面撮影は、正面撮影ではしばしば不明瞭化する中葉・舌区の粒状影や気管支拡張所見の把握、肺尖部に多い空洞陰影の見落としを防ぐために有用です3)。病変進行に伴う中葉・舌区の容量低下も容易に判読できるため、特に初診の側面像を確認することが重要になります3)

肺MAC症の病型分類

  • 一般に肺MAC症は、①結節・気管支拡張型(中葉・舌区型/Nodular bronchiectasis type:NB型)、②線維空洞型(結核類似型/fibrocavitary type:FC型)、③孤立結節型、④過敏性肺炎型、⑤全身性播種型の5つの臨床分類に分けられます 表3 3-4)
  • 最も頻度が高いのは結節・気管支拡張型で、線維空洞型は予後不良であることが知られています3)
表3

肺MAC症の病型

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肺MAC症の病型

日本結核病学会 編. 非結核性抗酸菌症診療マニュアル. 医学書院; 2015.、佐々木結花 編. 結核・非結核性抗酸菌症を日常診療で診る. 羊土社; 2017.より作成

結節・気管支拡張型(中葉・舌区型/NB型)

  • 肺MAC症において最も高頻度な病型です3)。近年は増加傾向にあり、肺MAC症の大半はこの病型です3)
  • 基礎疾患のない非喫煙、やせ型、中高年の女性での発症が多くみられます3-4)
  • 画像上では、中葉・舌区を主体とした小結節と気管支拡張を呈します3)
  • 症状は主に咳を主訴としますが、無症状で健康診断・人間ドックで発見されることも少なくありません4)
  • 臨床経過は、症例によってばらつきがあります。緩徐に進行することが多く、診断がついても無治療経過観察とされることもある一方で、治療抵抗性を示し、数ヵ月単位で病変が進行して死に至るケースも時にみられます。

線維空洞型(結核類似型/FC型)

  • 画像上では、上葉を中心とした空洞性病変と浸潤影を呈することが多く、結核と類似しており鑑別が困難な場合があります3-4)
  • 咳、痰などの自覚症状がみられます。
  • 比較的進行が速いうえに治療反応性も悪く、結節・気管支拡張型(中葉・舌区型/NB型)と比べると予後不良かつ再燃・再発リスクが高いことが報告されており4)、診断されたらすみやかに治療を考慮します4)
  • 患者背景としては、COPDやじん肺などの基礎疾患を有する高齢の喫煙男性で発症が多いとされてきましたが、基礎呼吸器疾患のないケースも増えています3)

主な病型の画像所見

結節・気管支拡張型
(中葉・舌区型/NB型)

図1

結節・気管支拡張型
(中葉・舌区型/NB型)の典型像

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結節・気管支拡張型(中葉・舌区型/NB型)の典型像

佐々木結花 編. 結核・非結核性抗酸菌症を日常診療で診る. 羊土社; 2017. p.137.

  • 典型的な胸部単純X線写真では、中下肺野に索状影や粒状網状影、淡い浸潤影を呈します 図1A 4)
  • 胸部単純X線写真では、白黒反転画像 図1B や側面像 図1C を参照することで、病変部位を検出できることがあります4)
  • 典型例の胸部CTでは、小葉中心性の粒状影、気管支拡張像・気管支壁肥厚像などの気道を中心とした病変が描出されます 図1D 4)
  • 進行例では、乾酪壊死や空洞形成を伴う所見や、胸膜病変や浸潤影を認める場合があります4)
  • 粒状影は、病理学的には肉芽腫ですが、結核とは異なり肉芽腫内に石灰病変が認められることはないとされています3)

線維空洞型(結核類似型/FC型)

図2

線維空洞型
(結核類似型/FC型)の典型像

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線維空洞型(結核類似型/FC型)の典型像

佐々木結花 編. 結核・非結核性抗酸菌症を日常診療で診る. 羊土社; 2017. p.195.

  • 典型例では、上葉を中心とした空洞性病変と浸潤影を呈します 図2 3)
  • 画像所見は結核と類似しており、鑑別が困難な場合があります4)
  • 結核との鑑別ポイントとしては、①空洞壁が薄く周囲の間質所見に乏しい、②経気管支性の病変散布よりも隣接した連続性病変を作りやすい、③肺実質より胸膜病変を作りやすい傾向がある、などが挙げられます3)

抗酸菌検査の流れ

図3

抗酸菌検査の所要時間と流れ

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抗酸菌検査の所要時間と流れ

日本結核・非結核性抗酸菌症学会 編. 抗酸菌検査ガイド2020. 南江堂; 2020.より改変

  • 菌種同定検査では、まず結核菌の同定/除外が最優先され、NTMの同定はそれに引き続いて行われます4)
  • 喀痰を採取したら、一般的に塗抹検査、培養検査、核酸増幅検査(可能であれば結核菌とMAC)を同時オーダーし、診断補助的検査として次項の血清検査をオーダーします。

血清検査(MAC抗体検査)

  • 本邦の肺NTM症の多くは肺MAC症ですが、肺MAC症の診断補助的検査として、MAC抗体検査が用いられています3)
  • MAC抗体検査では、MACの細胞壁の成分〔glycopeptidolipid(GPL9)-core〕に対するIgA抗体を測定します3)
  • 簡便に実施できますが、NTMの一種であるM. abscessusをはじめとする迅速発育菌の一部との交差反応で、偽陽性となることがあります。肺M. abscessus症は、肺NTM症の中でも治療が困難なタイプで、肺MAC症とは治療法も異なるため注意が必要です3)

喀痰検査

喀痰検体の採取

  • 喀痰検体の質は検査結果に直結するため、良質な喀痰が得られるように積極的に排痰指導を行います4)
  • 喀痰検体の質(膿性度)が高いほど、塗抹検査および培養検査の陽性率が高くなります6)
  • 喀痰検体の採取は、常在菌のコンタミネーションを防ぐために無菌操作により行いますが、NTMは環境中に広く存在しているため、気道への一時的な混入や検査室などでの混入の危険性が常にあります7)

塗抹検査

  • 古くから用いられている検査法で、現在でも最も迅速な抗酸菌検査の1つです6)
  • 菌種の同定はできません6)
  • 排菌量を評価できるため、排菌量の把握、治療経過の評価、退院時期の判断などの患者管理に不可欠な検査となっています6)

核酸増幅法

  • 核酸増幅法は複数の検査キットがあり、培養を必要とせずに、検体から菌の遺伝子を直接的に検出し菌種を同定できるものが多くあります4)
  • 核酸増幅法を行うには、専用機器が必要です8)
  • 生菌と死菌を判別することはできず、死菌でも陽性となる点に注意が必要です3)
  • 死菌も陽性になることや、高感度なゆえに環境からの微量なコンタミネーションも検出する可能性があることから、確定診断に用いるのは適切ではないと考えられています3)

培養検査

  • 肺NTM症の確定診断には、培養検査が必須です。培養検査の検体として、喀痰のほか、気管支肺胞洗浄液、胃液などがあります。
  • 培養検査に使用される抗酸菌の培地には、液体培地と固形培地があります4)
  • 一般に液体培地は感度と迅速性に優れており4)、液体培地の普及によりNTMの診断件数が上昇してきていると考えられます3)
  • 固形培地での発育速度と発色性から、抗酸菌をⅠ~Ⅳの4群に大別するRunyon分類という分類法が古くからあります 表4 4)。Runyon分類は、遺伝子検査を行わなくても菌種を予想できるという点で、有用と考えられます4)
表4

Runyon分類

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Runyon分類

佐々木結花 編. 結核・非結核性抗酸菌症を日常診療で診る. 羊土社; 2017. p.115.

培養検体を用いた同定検査

  1. ① 市販の検査キット

    • 培養検体を用いた菌種の同定法には複数の検査キットが利用可能です。
    • 結核菌の同定に用いられる免疫クロマトグラフィー法や、MACのリボソームRNA(rRNA)を検出するDNAプローブ法などがあります4)
  2. ② MALDI-TOF MS

    • 近年は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析装置(MALDI-TOF MS)という質量分析計を用いた方法が、新たな同定法として広く普及しつつあります6, 9)
    • 細菌のタンパク質の発現プロファイルをデータベースと照合し、菌種を同定します9)
    • 簡便かつ迅速な検査で多くの菌種の同定が可能ですが、培養条件の影響を受けたり精度が菌種により異なるとの報告もあります9)

REFERENCES

  1. 日本結核・非結核性抗酸菌症学会 非結核性抗酸菌症対策委員会, 日本呼吸器学会 感染症・結核学術部会. 結核. 2024; 99(7): 267-270.
  2. 佐々木結花, 小川賢二 編. 非結核性抗酸菌症の臨床. 新興医学出版社; 2010.
  3. 日本結核病学会 編. 非結核性抗酸菌症診療マニュアル. 医学書院; 2015.
  4. 佐々木結花 編. 結核・非結核性抗酸菌症を日常診療で診る. 羊土社; 2017.
  5. 青木正和. 複十字. 2008;320: 10-11.
  6. 日本結核・非結核性抗酸菌症学会 編. 抗酸菌検査ガイド2020. 南江堂; 2020.
  7. 鈴木克弘. 日内会誌. 2011:100(4): 1058-1066.
  8. 小野保. Medical Technology. 2019;47(2): 145-149.
  9. 森重雄太, 御手洗聡. 呼吸器ジャーナル. 2018; 66(4): 549-556.